ホタルが灯す未来への意識─地域イベントが育む環境保全と関係人口拡大に向けた好循環
- tamaku.おもてなし研究所

- 6月1日
- 読了時間: 3分
更新日:8月18日

⸻
里山の自然が持つ観光資源としての価値
愛媛県松山市の中山間地域に位置する窪野町は、市街地から車で30分ほどの距離にありながら、手つかずの自然と人の暮らしが共存する、貴重な里山環境が今も残されています。特に、初夏に見られるホタルが舞う光景は、かつては全国各地で当たり前のように見られた風景ですが、今では限られた地域でしか見られなくなっており、その希少性が観光資源としての価値を高めています。
この自然を活かして地域の魅力を発信する場として開催されているのが、「松山くぼの町ホタル祭り」です。ホタル鑑賞だけでなく、地元農産物の販売や地域団体による出店などもあり、訪れる人に“地域全体の魅力”を体験してもらえる構成となっています。自然と人と文化が融合するこのイベントは、窪野町のブランド形成にもつながっています。
⸻
環境保全の重要性を“体験”を通じて伝える
ホタルは、水質や植生、光環境などさまざまな条件が整わなければ生息できないため、「環境のバロメーター」とも呼ばれています。ホタルが毎年姿を現すという事実は、地域の環境が良好に保たれている証であり、それを支えているのは地域住民による日々の努力です。
ホタル祭りでは、そうした背景を伝える取り組みが随所に見られます。展示や解説を通じて、来場者は「この美しい風景は自然のまま存在しているわけではない」ということを実感できます。こうした体験は、環境保全の意識を高めるだけでなく、「自分も何か役に立てるかもしれない」という参加意識を生み出すきっかけにもなっています。
⸻
参加型の体験が関係人口の入り口に
ホタル祭りは、一度訪れて終わる“観光”にとどまらず、継続的な関係を生み出すきっかけにもなっています。訪問をきっかけに地域に興味を持ち、ボランティアや農作業体験などを通じて再び地域を訪れる人が年々増えています。
特に、近隣の愛媛大学や東雲大学の学生たちがホタル保存活動や運営サポートに関わる機会が増えており、若い世代と地域が自然につながる場となっています。こうした交流が、将来的なUターンやIターンのきっかけとなることも期待されています。ホタル祭りは、地域と人を“関係人口”として結ぶ大切な接点となっているのです。
⸻
観光の質を変える「守る観光」への転換
これまでの観光は、観光地を訪れて“消費する”スタイルが主流でした。しかし、現在では、地域と継続的に関わり、学び、支える「関係性のある観光」が求められています。
ホタル祭りは、「自然を守ること」に価値を置いた新しい観光のあり方を提案しています。ホタルの舞う風景の裏側には、環境を保ち続ける地域の努力があると知ったとき、訪れた人々の意識は変わります。そして、自分自身もその循環に参加できると気づいたとき、観光は“受け身の体験”から“能動的な協働”へと変化していきます。こうした価値観の転換は、地域にとっても訪問者にとっても、持続可能な未来への一歩になるでしょう。
⸻
今後の可能性
今後は、ホタルの保存活動や自然環境をテーマにした体験型プログラムの開発がさらに進むことが期待されます。たとえば、ホタルの生態を学ぶフィールドワークや、生息地の整備活動への参加、小学生向けの環境学習プログラムなど、多様な年代や関心層に対応した内容が考えられます。
周辺地域の飲食店や宿泊施設と連携した滞在型のプログラムを構築することで、地域経済への波及効果も広がっていきます。観光・環境・教育が結びついたこうしたモデルは、地域が抱える人口減少や担い手不足といった課題への一つの解となり得ます。ホタル祭りをきっかけとした地域づくりの取り組みは、これからの地域活性化のヒントとして、大きな可能性を秘めています。







コメント