由緒ある“幻の米”を、信頼の連鎖で旅人の一膳に─販路設計によるブランド価値の最大化
- 権名津 琢磨

- 2024年10月1日
- 読了時間: 3分
更新日:8月18日

ー松山市窪野町のブランド米「窪野米」、日本最古泉道後温泉の老舗旅館で新米期限定提供ー
愛媛県松山市の中山間地域・窪野町。この地で育てられる「窪野米」は、かつて松山城主に献上されたと伝わる由緒ある米です。昼夜の寒暖差、澄んだ水、丁寧な栽培が生むその味わいは、豊かな甘みと粘り、香り高さを兼ね備えています。
かつて城の台所として松山の城下を支えた窪野と、城主や湯治客が訪れた湯のまち・道後。両者は歴史の中でゆるやかにつながってきました。今回の取り組みは、そうした地域の文脈を現代に紡ぎ直し、食を通じて再び人と土地を結びつけるものでもあります。
しかし、地形や作付面積の制約により生産量はごくわずか。市場にはほとんど出回らない希少な米であり、その価値を正しく評価し、丁寧に提供できる場は限られています。
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限られた販路だからこそ実現する、価値の連鎖
窪野米は、広く流通させることよりも、信頼できる手によって丁寧に届けることを重視しています。その道筋には、多くの人の手が加わり、**段階ごとに新たな価値が重ねられていく“価値のリレー”**が成立しています。
(プレイヤーが紡ぐ、地域価値の物語)
生産者(窪野町)
自然に寄り添い、少量ながらも高品質の米をつくることで、窪野という地名そのものがブランドとして根づいていきます。手間と誇りが守る土地の味。
米穀店
米の性質を見極め、ホテルには最適な炊き方を指南。生産者には栽培や精米に関するフィードバックを返すなど、品質向上のハブとして機能しています。
老舗旅館
確かな目で選び抜いた食材のみを扱う、**信頼ある“器”**としての存在。今回は窪野米の「冷めても美味しい」特性を活かし、握り飯として自家製の漬物とともに提供。料理人の技と地元食材が、米の魅力を引き出します。
消費者(旅行者)
歴史ある米、地元の野菜、老舗旅館のもてなしが融合したこの一膳は、単なる食事ではなく「地域を味わう体験」へと昇華されます。
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流通の広さではなく、深さが生む持続可能な価値
この取り組みは、**「狭く、深く、信頼ある流通」**によって実現する地域活性のモデルケースです。多くに売るのではなく、その価値を真に理解し、丁寧に届けてくれる相手とつながること。
それが、地域資源を単なる“特産品”ではなく、物語を持った体験価値へと昇華する道であることを示しています。
窪野の山間で生まれた一粒の米が、道後の湯宿で一膳の体験へと形を変える――
かつての献上米が、現代の旅人の記憶を彩る“現代のごちそう”として、静かに命を吹き返しています。







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